セレネには、1台の特別なグランドピアノがあります。
「交流のピアノ」と呼ばれるこのピアノは、東京・新宿にあった画材店・月光荘から
店の創業100年、そして黒部川開発100年を記念し、黒部市に寄贈されたものです。
1917年、“友を呼ぶホルン”をトレードマークに創業した
月光荘の店主・橋本兵藏さんは、富山県上市町出身。
月光荘おじさんと呼ばれ、親しまれていました。
店の名は、歌人の与謝野鉄幹・晶子夫妻が詠んだ
〜大空の月の中より君来しや ひるも光ぬ夜も光ぬ〜という歌に由来しています。
店内には、グランドピアノやアコーディオン・ギターなどが置かれ、
出入りする芸術家や文化人たちが演奏していたといいます。
橋本さんは第二次世界大戦中、疎開した宇奈月温泉で、絵具や画材を製造する工場と自宅を構えました。
その後、宇奈月温泉を若い画家たちの理想郷にしようと自宅に設けた一室へ
このグランドピアノを移しました。
そして終戦の翌年、宇奈月温泉が大火に見舞われました。
橋本さんは、焼失してしまった内山小学校宇奈月分教場の子どもたちのために
大火を免れた自宅を開放し、音楽を学ぶ場を作りました。
グランドピアノは授業でも使われました。
その後の1948年、橋本さんは銀座で月光荘を再開。
グランドピアノは、再開した店舗を30年見守り
2017年、3代目店主の日比康造さんの手で黒部市に寄贈されました。
数奇な運命をたどり、その度に傷を負い
鍵盤に触れていった人々の喜怒哀楽がしみ込んだ「交流のピアノ」。
ひとたび、白い象牙の鍵盤をたたけば、すぅーと音が空間に広がり
あたたかく、穏やかなひとときを創ってくれます。
「交流のピアノ」はこれからもこのセレネを訪れる人々を見守り
さらに美しい音色を奏でてゆくことでしょう。